啓蒙とは何か―他四篇 (岩波文庫 (33-625-2))



啓蒙とは何か―他四篇 (岩波文庫 (33-625-2))

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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哲学史的には本稿が果たしている役割は大きい

学生時代にドイツ思想史の講義テキストとしてドイツ語原文を読んでいたにもかかわらず、すっかり忘れていた。最近フーコーの自著解説とも言える「わたしは花火氏です」を読み、彼の近代論研究の原点としてカントの「啓蒙とは何か?」を詳論しており、本書を再読した次第。純理を刊行して3年経った時期で、カントが哲学をどう位置づけているかをも精確に表現した論考として、実に重要である。さらに彼の哲学体系を類推できることの意味も大きい。本書を読めば、第2、第3批判書の意義付けのしやすくなる。短いが哲学的<近代>の時代区分設定を検討するにも、大きな指標となる著作である。個人の自立をテーマにしており、これは近代意識の確立に関わるもので、最低限のメルクマールであろう。他の著作も著名なテキストを収めている。が、哲学史的には本稿が果たしている役割はさらに大きい。


小粋

 この中にはカントの卓越した歴史哲学が収められている。創世記を土台として、歴史を描いて見せるというものである。アダムとエヴァの興味深い話がある。ヘーゲルにもあるが視点が違う。また「万物の終わり」というような題だと思うが、これもまた興味深い。このような小粋な論文が5編おさまっている。
圧倒されるカントの底力

物理学を始め数理に関して一流レヴェルの実力があったカントは、本書において、「歴史哲学」においても、常人及ばざる異常な能力を示していたことが分かる。表題作「啓蒙とは何か」よりも「世界公民的見地における一般史の構想」を特に推したい。劈頭からいきなり独創的な言辞の連続で圧倒される。そこには社会学の視座の起源と言って良い命題が登場し、続いてヘーゲルの歴史哲学のアルファとオメガが数行の下に圧縮されており、さらに、当時にあって既に社会統計の存在理由を明言している。その後展開される各命題は、ヘーゲル、マルクスの思想をすっぽりその中に入れてしまうほどの射程を示している。とくに、ヘーゲルにおいて更に具体的且つ壮大に展開された「自由を求める」エネルギーが歴史の原動力であることは、もう、ここに、十分なほど明確に書かれているのである。そしてそれが決して「理念」などではなく、人間という生き物の本性として把握されている。さらに、特筆すべきは、後の社会思想家が、人間を社会的動物だ、という命題のほうに傾斜して事を論じたのに、カントは、人間の「非社交性」をもその本性として、論じており、これが社会のフリクションの原因であるが、また社会発展の要因としてみているのである。人間同士の戦いや、フリクション、欲望のぶつかり合いが歴史の原動力であることをヘーゲルもドラマティックに語ったが、人間の持つ「非社交性」というこの観点については定かではなかったと思う。この点を意識的に前面に出しているあたりは、もしかすると、ルソーからの素朴な影響の結果であって、ヘーゲルはそれを一ひねりしたとも思えるが、今となれば、やはりこの「非社交性」という観念を社会理論に取り入れて再度考えてみるほうが、十九世紀になって深化させられた「単独者」の観念と結びつく可能性があると思う。この論文は、そして、世界連合へと結実していくであろう、人類の足取りのシナリオを示唆して行く。読んでみれば分かることだが、カントは全く理想論を唱えている訳ではないことが明らかだ。自ずとそうなっていくであろう歩みの必然性が述べられている。小冊子に過ぎないが、圧倒的な影響力を示した類稀な小著だと思う。
「あえて賢くあれ!」とカントはいう

 啓蒙とは、かなり歴史的な偏見を帯びたひどい訳語だ。原語はAufkla"rung(英語だとenlightment)なのに、「啓蒙」とは誰かエライ人がバカをつかまえてほどこすことみたいに思われている(広辞苑で引くと「無知蒙昧な状態を啓発して教え導くこと」とあった)。

 どうしても「蒙(くらい)」をいれるなら、「脱蒙」(笑)と訳すべきだろう。Aufkla"rungとは自分でやるのである。でないと、表題作の最初の一節は理解できない。

「啓蒙とは、人間が自分の未成年状態から抜け出ることである、ところでこの状態は、人間がみずから招いたものであるから、彼自身にその責めがある」(「啓蒙とは何か」)。

 ここでいう「未成年状態」というのは、本文で続いて説明されるように、他人まかせの状態、他人の指導を必要としている状態のことである。だから人から「啓蒙される」ような輩は、まさに「未成年状態」にとどまってるのであって、全然「啓蒙」じゃないのである。

 では、「未成年状態」にとどまってる原因は何か。それは、そいつがバカだからではなく、自分の悟性(アタマ)を使用しようとする決意と勇気を欠いているからである(とこれもカントが言ってる)。
 だから啓蒙の標語は、「自分の悟性(アタマ)を使う勇気を持て!」であり、「あえて賢くあれ!」である。
まずはこれから

ドイツ啓蒙思想の代表的著作。カント哲学を貫徹する「自律」概念を理解する上でもっとも重要な小論文集であろう。

「啓蒙とは何か」において、自律について、そして自由について簡潔に語られている。カントの読む上で重要になってくる概念である。

また「人類の歴史の憶測的起源」も必読のものであると思う。ヨーロッパ文化における信仰(キリスト教)と理性(哲学)との係わり合いを考える上で実に興味深い。カントは「創世記」を手がかりとして、見事に自然、文化、道徳を考察している。

自由、自律、自然、文化、道徳等等。いずれも慣れ親しんだ言葉ではあるが、その実は大変ややこしいものでもあり、今一度吟味する必要があるのではないか。三大批判書を読む前に是非読んでおきたいものである。でなければ、独りよがりな解釈に陥る危険がある。

カントを読まれる向きにはまずこれから。



岩波書店
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実践理性批判 (岩波文庫)
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